第4回 2020年11月5日 / 2021年2月1日 /
2021年2月22日
「難しいですね、歌詞って」
最初の打ち合わせから約半年が経ち、曲の骨格はだんだん見えてきた。水野良樹が作ったサビのメロディに亀田誠治が平歌のメロディを付け加え、これをもとに山下穂尊と吉岡聖恵が歌詞を書く。そんな共同作業の役割分担も決まった。ここから、どう肉付けしていくか。どんな言葉で、2020年のコロナ禍での社会の変化を踏まえた普遍性のある歌を作ることができるか――。楽曲制作はいよいよ佳境に入っていく。
11月5日。水野は欠席し、山下と吉岡と亀田がZoomで集まった。
本当に大事なものだけが
見えてきている
亀田「今日から、ここから」の平歌の部分の歌詞を進めていこうという話ですけれど、今ってどういう状況になってきてるんだっけ?
吉岡こないだのことを受けて、思いついたことを書いてみました。
山下それが僕の手元にあって。今まではそれをもとに僕が全部作っちゃうことが多かったんですけど、今回は亀田さんの意見も共有しつつ話していければいいかなと思います。
亀田いいね、そうしよう。
夕暮れの街 ひとり歩いて すこしむかしのこと思った
信じてるもの 大切なもの 僕をつくるもの
(掌にのせてみる)
まわりみちして
とおまわりして 今を生きてる僕がいる
変わりゆくもの ここにあるもの
僕とともにあるから(あるもの)
亀田この歌詞はもうメロディに乗っかってるんだね。
吉岡こないだ出たキーワードを拾っています。過去を振り返ることも大事だけど、それを持ってこれからに行くみたいなイメージで書きました。
山下僕が思ってたのは「ふるさと」みたいなキーワードで。「帰りたくても帰れない」とか「会いたくても会えない」ということを元に書いていけるかなって思ったんですね。実際、僕のお祖母ちゃんは静岡で施設に入ってるんですけど、ウイルスの影響で外部の人間は会えないんですよ。いまだにそれが続いている。そういうところも、みんなが共通して理解できる言葉になるのかなって思ったりしました。
亀田「戻りたい」という思いって、常に僕たちの気持ちを支配しているよね。強い自分が出てきて「今からなんだ」と思える時もあるけれど、その一方で自分が誰かと生きてきた時間も確実にある。心の故郷や原風景も自分の中心にある。それは、あらゆる世代の人たちの共通の気持ちなんじゃないかとも思う。ずっと僕らを支配している、一言で言うと「分断」というものを、この歌で優しくつなげることができるといいんじゃないかなって。
山下僕らは海老名とか厚木で育ちましたけど、そこは僕らにとってやっぱり故郷なんです。うちとか水野家もそうですけど、自分たちの親世代は、いわゆるドーナツ化現象で都心に家を持てなくてあのあたりに住んでいる人も多いんですよ。彼らからすると、その場所に思い入れはない。でも、そこで生まれ育った僕らにとっては、ちゃんと故郷の原風景になっている。帰る場所みたいな感覚になっている。そういう気持ちを大切にしたいというのはありますね。
亀田物理的な場所だけじゃなく、記憶の中にある場所、心の拠り所もあるかもしれないね。それはきっと誰にでもある。あとは、ここ最近、ようやくスタジオでも作業ができるようになってきたけど、こうやって春からZoomを通じて話してきたことで、みんなとの結びつきが本当に強くなった感じがするんですよ。関係が熟成されてきたというか。
山下今まで当たり前すぎて見えなかったものが、こういう状況になって改めて見えた。そういうことだったりするかもしれないですね。
亀田そこはキーワードになりそうだね。本当に大事なものだけが見えてきている。
吉岡それはある気がする。
加害者のいない被害者
3人の話は、SNSを通して見える人々の心情や、苦境に立つ飲食店の様子など、コロナ禍があらわにした社会の変化へと踏み込んでいく。
亀田今回のコロナで、みんな答えが出ないものを長時間つきつけられてると思うんだよね。そういう中で、センシティブというか、気を使わなきゃいけなくなってきている感じがあって。ツイッターを見ていても、すごく人を傷つけやすくなっているし、傷つきやすくなっている。それを見て防御態勢に入っているような自分がいる。それは誰にでもあるような気がしていて。昔から人間が本質的に持っているものなのかもしれないけれど、明らかにコロナ禍においてそれが顕在化してきて、強調されてきているような気がする。
吉岡みんながよりナーバスになっているってことですかね。いろんな状況の人がいるし。
亀田そうだね。日比谷音楽祭も多様性とかいろんなことを大事にしようとずっと言ってきたんだけど、それが本当にくっきり浮かび上がってきた。なんだろうね、この感覚。
吉岡どこか地雷かわからないというか、何を言っても「これで傷つくかも」っていうのはあります。
亀田そういう部分をほぐせる、包み込むような、優しさの一行があるといいね。
吉岡すごく包容力がある言葉だと思う。
山下今の状況って、なんだか「加害者のいない被害者」という言葉が思い浮びました。言葉としてはちょっと過激ではあるんですけど。
亀田そうだね。「加害者のいない被害者」ってすごくわかる。誰も悪くないんだけど、いろいろ難しい状況があって。SNSでも人としてどうかと思うような言葉が平気で使われたりする。コロナ禍でそれが加速してるような気もするよね。
失ってしまったことを
嘆くんじゃなくて
吉岡近くのカフェが、コロナのときはテイクアウトだけで、今も店全体を使えてなくて。カフェのお兄さんに「はやく店全体を使えるようになるといいですね」って言ったら、「一生この感じかもしれないと思ってやってます」って言われたんです。私、それを聞いて「そこまで腹を括ってるんだ」って思って。その決意にもビックリしたし、「そんなことないですよ」って簡単に言い切れないことも、やっぱり新しい世界だなって思って。そこまで開き直れるには強さが必要だと思うし、やっぱりこの曲にも、そういう強さが必要だなって思いました。
亀田こういうリモートワークもそうだけど、得ているものが多いと感じる人もいるし、失っているものが多いと感じる人もいると思うんだよね。その差が拮抗している。そういう中で、人の気持ちがどうしても後ろに引っ張られることがすごく増えている気がしていて。人の気持ちがマイナスな方向に向かっていて、プラスなものが動こうとするとマイナスなものが絡んでくるようなことが起きてると思うんです。そういう中で、今回の歌が、気付くきっかけになりたいということは思っていて。失ってしまったことを嘆くんじゃなくて、一番大事なものに気付くという。僕らが必要としているワードはそこなんじゃないのかな。この歌は「今日から、ここから」という言葉でそれができると思うんだ。あたたかいし、光があるし。そこに行くまでの気持ちを、平歌の部分でセットアップしていくということかな。
山下……できそう。
亀田できそうでしょ!
山下いま、いろいろ浮かんでます。吉岡の草案とも相談して、作ってみますね。
亀田で、ほっちと話して浮かんできたものを、もう一度話しあえるといいかな。
山下それで議論して、もうちょっと熟成させてみましょうか。一回自分の考えをまとめてみたものを、また聖恵に投げてみます。
亀田こういう形で分担できるのが、グループの本当に一番素敵なところだよ。
こうして時はまた過ぎ、いきものがかりと亀田誠治の4人が再びZoomに集まったのは、年が明けた2021年の2月1日。山下が書いてきた歌詞の叩き台をもとに、さらに議論は進んでいく。
どこまで客観的になるか、
どこまで抽象的になるか
全員あけましておめでとうございます。
亀田しばらくぶりなんですけれど、今日は、前回の聖恵ちゃんと穂尊くんと平歌を作ってみようという、その欠片をもう一度確認しながら、この曲をどう完成させていくか、僕らの目線で会話ができればいいと思います。歌詞をテキストでもらってるんだけれど、これは?
山下前回のを受けて僕が譜割りを気にせずに書いたものです。これをまた噛み砕いていったらいいかなっていう感じです。
新しい世界は毎日で
懐かしさ求めて歩いてる
当たり前の難しさ
母の作る味噌汁はやっぱり美味しくて
誰かが放った悪口と傷口
包み込める優しさと絆創膏
今日もいつものカフェに行ったよ
扉は閉じたり開いたり
亀田メロディに乗った感じも聴いてみたいなって思うんだけど。
吉岡ナウですか? やってみます。(歌う)
水野引っかかったのは「母の作る味噌汁」っていうフレーズかな。いろんな世代のいろんな人に楽しんでいただくことを考えると、親子関係に苦しんでる方もいらっしゃると思うし、家庭の味噌汁をハートウォーミングな題材にするのはあまり普遍性を持ったことではない気がする。あとは、カフェもそうかな。個人的には、カフェに行くという行為はちょっと余裕がある感じがするというか。もうちょっと広くなった方がいいのかなと思った。それくらいですかね。
亀田僕もカフェと味噌汁に関してはやっぱりちょっと違和感がありました。サビの部分と平歌の部分は、質感は離れていても同じ土台であったほうがいいと思っていて。そうすると、カフェというのはちょっと異質かな。平歌でめっちゃ具体的な言葉が出てくると、サビでふわっとしすぎちゃう。結論に持っていくのに大胆すぎる感じになるというか。そこはちょっと気になったかな。
水野調整が必要ですね。亀田さんがおっしゃった、サビの抽象度と平歌の具体性のバランスというのはあって。カフェという言葉が出てくると、歌全体がそれくらいの具体性を持ってないとそぐわない感じがするというか。
亀田そうだね。でも絆創膏はたぶん大丈夫だと思う。
吉岡はい、私は思いました。絆創膏とか大好物だなって思いました。子供でもわかる言葉ですし。あとは「扉は閉じたり開いたり」も絶妙にいいなって思いました。
山下詞の狙いとして具体性があるものにするかどうかは、どっちかなと思っていて。あと、どこまで客観的になるか、どこまで抽象的になるかは、ギリギリを攻めるところかなって気がしてる。
亀田たとえば「誰かが放った悪口」とか、そういう部分はパーソナルな経験だとしても、全然大丈夫だと思う。不確かで、不寛容で、もぞもぞする期間が長い中、こういう言霊によって救われる人の入り口になるところはあると思うけどね。
自分が歌ってて
気持ちいいのが大事
こうして話し合いは、歌詞を完成させるための具体的な段取りへ。山下の書いたキーワードを受けとって、吉岡が次回までに歌詞を書き上げることになった。
水野ここからは、亀田さんに作っていただいた基本的なデモの構成とメロディに歌詞をハメていく感じで進んでいくのがいいと思うんですけれど。これは誰かが書いていったほうがいいのかな。二人はどう思う?
山下ここにある歌詞に関しては譜割りを気にしてなくて。その前に聖恵が出してくれたものがあって、そこから俺もヒントみたいなものを書いたもので。これを聖恵に渡して、またやり取りをしようっていう話だったんで。
水野じゃあ、今度はこれを受けて聖恵が書いたほうがいいのかな。
亀田あとは、ある程度の定形感があったほうがいいなとは思います。ちゃんと韻を踏むとか、言葉の響きがきれいになるような母音の使い方をするとか、そこはもうちょっと整えるといいかなと思う。
水野ざっくり言うと、自然に歌いやすいもの。それは聖恵が一番よくわかってると思う。自分が歌って違和感がない歌詞というか。
吉岡私の歌に自然にハマるやつ。
水野そうそう。自分が歌ってて気持ちいいのが大事。
亀田そうだね。ここに山下くんのエキスは相当入っているから、ここから先はどれだけ吉岡聖恵を発揮できるかということだと思う。今まで歌ってきた経験の中で、この言葉の響きが好きとか、この喉の返しが気持ちがいいとか、そういう声の鳴りどころがあると思うんで。
吉岡歌いやすい、気持ちいいところということですよね。
水野聖恵は童謡とかがルーツじゃない? だから自分が気持ちいい感じで歌うと、みんなが歌いやすいものだったりするような気がする。今回の曲は特に難しいところがないほうがいいと思うから。聖恵が歌いやすいと感じるならば、自然と口ずさみやすくなるんじゃないかな。
亀田口馴染みは大事にしたほうがいいかもね。自然に出てくる言葉を今ある土台から磨いていくのがいいような気がします。
水野聖恵がなんとなく書いて、歌っちゃったらいいと思う。その仮歌を土台にみんなでもう一回歌詞を再検討してバランスを取ったり書き換えたりしたらいいんじゃないかな。
吉岡オッケーです。じゃあ、今日からここから!
そこでもう一ひねり
あったほうがいいかもしれない
そして2週間後の2月22日。吉岡が歌詞を書き上げ、GarageBandを用いて自宅で仮歌を録音したものを持ち寄って、再び4人が集まった。いよいよ完成像が見えてきた。
亀田さて今日はもしかしたらゴールインじゃないですか。あれから歌入れはした?
吉岡入れてます!
亀田じゃあ、まずは聴いてみようか。
今日から ここから
この世界かわってゆくように
今日から ここから
願い こめて
優しい 風の中で
Lalala...
夕暮れの街 ひとり 歩いて
懐かしい景色 おもっている
「いつもの日々」よ
「愛しき今」よ
すり切れてる スニーカー
今日から ここから
この世界 かわってゆくように
今日から ここから
歩きはじめよう
今日から ここから
風がまた かわってゆくように
今日から ここから
日々を重ねよう
愛しい 空の下で
つまずいた時 差し伸べられた
あの手 ぬくもりは絆創膏
あきらめかけた 心のとびら
閉じてはまた開くよ
Lalala... Lalala...
今日からここから
この世界 かわってゆくだろう
今日か ここから
歌いながら
今日から ここから
僕もまた かわってゆくだろう
今日からここから
想い 伝えよう
遠くこの空 君といま手を伸ばして
優しい 笑顔を忘れたくない
新しい 風の中で
新しい 風の中で
亀田タンタンタンタン、タンタンタンタン、タンタンターンじゃない、これ!?(笑)
水野それは合格ってことですか(笑)。
亀田すごくいいと思いました。細かなことはあるけど、ほぼ良いと思います。
吉岡ありがとうございます! あの後、皆さんの言っていたことを散りばめて書いてみました。
亀田じゃあ、一つ一つ思っていることを整理していこうか。まずは「懐かしい景色」の譜割りが良くないね。
吉岡たしかに。自分でもちょっと変だなと思っていました。
亀田あとは、「いつもの日々よ 愛しき今よ」は、みなさんどうですか。
水野そこのくだりはすごくいいと思うんですよね。今まであった日常と、今の大変な瞬間と、その両方を大事にしなきゃいけないと感じているところがしっかり出てるから。「いつもの日々と 愛しき今と」にして、その後につながるフレーズがくるといいのかなと。
亀田そうだね。僕も「よ」より「と」にしたほうがいいかなって。
水野あとは「すりきれてるスニーカー」のところが、メロディがサビに向かって盛り上がってるところで、肩透かしに思える。そこでもう一ひねりあったほうがいいかもしれない。
吉岡壮大なメロディと「スニーカー」って言葉があってないのかな。
亀田僕も気になったのは、「よ」と「すりきれてるスニーカー」のとこだけで。あとは単純にトータルのBPMをちょっと上げたいと思ったかな。老若男女親子三世代って考えると、優しいメロディに優しい歌詞だからこそ、乗れない、待てない人たちもいる気がする。僕はそれくらいです。山下くんは?
山下俺も「よ」より「と」かなと思いました。あとは、フェードアウトっぽく終わるじゃないですか。コーラスも、最後はいろんな人の声が入って終わっていくのがいいのかなって思いました。
吉岡いろんなニュアンスが入ってきた方が生々しさがありますよね。
亀田いろんな表情の人が加わればいいっていうことだね。
水野ただ、みんなが歌うって、結構圧があるから。簡単に言えば、押し付けがましくなりがちで。より深く、優しくするには、シュプレヒコールみたいに歌うんじゃなくて、自然とみんなが歌ってる感じを見せる気遣いが必要だと思うんですよね。
亀田さん、面白いですね、
このやりとり
吉岡の歌詞をもとに、言葉の細かいニュアンスや響きを4人で詰めていく。歌詞に対する考え方や作詞の方法論も語り合う。実はいきものがかりにとっても、メンバー同士でここまで歌詞の言葉について突き詰めてやり取りする経験は初めてだったようだ。そして、その様子がオンライン動画の形で記録に残っているというのも、とても貴重なことだと思う。
水野あとは、すごく細かいけど「変わってゆくだろう」っていう言葉は、どういうニュアンスがいいのかなと思って。変わっていくように願うスタンスか、傍観者として見ている感じのスタンスか。どっちもあってもいいと思うんだが、そこのさじ加減を考えていかないとダメだな、と。
亀田そうだね。断定的な意味合いじゃないほうがいいよね。
水野2番のAメロの「つまずいた時 差し伸べられた あの手」というのも、あったかいし、前向きだと思うんだけれど、ただ、つまずいた時に助けてくれる人が近くにいない人、たまたま今のタイミングでそういう人のつながりがない人は、入っていけないかもしれない。そういうちょっとしたことがあって。何も問題ないし、すごく良くなってると思うんだけど、それくらいかな。そういうことを細かくやっていけば、太い曲になると思う。
吉岡難しいですね、歌詞って。
亀田難しいんだよ。だから楽しいんだけど。
亀田やっぱり1サビの前の「すり切れてる スニーカー」のところじゃないかな。
水野そこはごそっと変えたほうがいいかもしれない。
亀田ここは肩透かししないで、ズドンと言ってもいいかなって。1サビ前に関しては俺にやらせてもらっていいですか?
水野それはもう是非!
亀田ここは明確なイメージがあるんです。
吉岡分業制ですか? 私、2Aやろうかな。
亀田あまりいいところは変えないでよ。
吉岡難しいな。
水野そうだよね。でも頑張って。自分なりに見つけると聖恵の色が出ると思う。
亀田2Aのミッションとしてサビにいかないからね。
吉岡あそこは気持ち高まってますもんね。あれだけ絶叫しますもんね。
水野だから、もうちょっと強度がいるっていうことなのかな。
吉岡強度って、どういうこと? ぼんやりせずにってこと? ある特定の人じゃなくてっていうこと?
水野そういうところも含めて、本当に冷めた視線で見た時に、それでも何か拾えるものがあるということだと思うんだよな。「つまずいた時 差し伸べられた」って、主人公が困難な状況に置かれるじゃん。寂しい思いをしたり、孤独を抱えていたり、何か主人公に負荷を与えてそれを解決するという方法で歌詞を書くと思うんだけど。その時に、絶対にそこからもれる人がいることを意識する。全ての人が上手くいくわけではないというか。それだけでちょっと違うというか。こういうこと、人に説明したことがないんだけど。
吉岡初めて聞いた。
水野もともとネガティブだから、基本、誰にも助けてもらえないと思っていて。助けを与えられた時に、騙されるんじゃないかとか、また傷ついちゃうんじゃないかとか、そう思って上手くそこに乗れない人がいると思う。だから「なくもんか」でも、誰かが差し伸べてくれてるその手を握れる勇気があるか、というような歌詞を書いたと思うんだ。同じように、さらに引いた目で、自分へのツッコミを何度も繰り返してみるっていうこと。ややこしく説明するとそういうことなんだけど、それを聖恵なりに表現をすればいいんじゃないかな。難しく考えるより、バッと、自分の思うことを書いてみるほうがいいかもしれない。
吉岡やってみよう。どうですか、山下総監督?
山下「風がまた かわってゆくように」ってのはすごいよかった。「かわっていく」という言葉をどう使うかだと思うんだよね。キーっぽく書かれてるから。ここのフレーズはすごいよかったから、ここは守っていこう。
吉岡オッケー。
亀田ちなみに、これはメソッドというわけじゃないんだけど、僕はよく歌詞を書くときに「……」とか「!」とか「?」みたいなのをあえてつけるんですよ。で、それがなくても通じるかどうか、メロディになった時にどう聴こえるかみたいな基準を当てはめる。そうするとはかどるというのがあって。
吉岡その「!」とか「?」は最後に抜くんですか?
亀田そうそう。暫定で「……」とか書いて、それを抜く。そういう心の句読点を意識すると、「俺はこんなことを言っていたのか」みたいなことがわかりやすくなる。
吉岡なるほど……。亀田さん、面白いですね、このやりとり。
亀田ね!
吉岡いきものがかりが誰かと共作するって初めてなんですよ。メンバーともこういうやりとりをしたことはあんまりなくて。3人でやるのは初めてだよね。
水野たとえば聖恵が書いてきた歌詞に「ここはこういう言葉のほうがいいと思う」みたいな話をこんなにしっかりやるのは初めてです。普段も聞かれないと言わないから。
吉岡おもしろい!
亀田僕もおもしろいです。こんな話したことないもんね。もう完成は見えてきてるし、アレンジは心配してないので、ともかく歌詞を推進させちゃおう。
文・構成/柴那典
メンバーが当時の事を振り返ります。
「今、ここ」でのつぶやきです。
亀田誠治さんとの共作プロジェクト『今日から、ここから』
— 水野良樹 (@mizunoyoshiki) May 23, 2021
昨年の5月から、1年にわたって曲をつくっていく過程を記録しました。少し長いけれど、テキストも動画もあるので、ぜひじっくり読んでいただきたいです。本当にありのままが公開されています。https://t.co/9jxvp3FcO1
この1年だからこそ、本当にリアルタイムで語り合った言葉を残しておいてよかったなと思っています。この記録の意味が”立ち上がっていく”のは、おそらく”これから”です。自分も精神的にかなり揺らぎのあった1年だったので(今もだけど)、語っておいてよかったなと思っています。
— 水野良樹 (@mizunoyoshiki) May 23, 2021
デモも含めて、楽曲や歌詞の制作の過程をやりとりそのまま出しています。あまりありえないことです。あまりにありのままなので、淡々としていてむしろドラマティックではないかもしれません。でもだからこそ、読んで欲しい、同じ時間を追体験してほしいとも思います。
— 水野良樹 (@mizunoyoshiki) May 23, 2021
そして、4人の語りのなかでも出てきますが、この曲のスタートラインは日比谷音楽祭のステージです。レコーディングが終わっても、まだスタートではありません。長い物語がまだ待っていると、信じています。ぜひ楽曲を聴いていただきたいです。
— 水野良樹 (@mizunoyoshiki) May 23, 2021
いきものがかりのメンバーと僕が、一年かけて一緒に作ったこの曲は今週末の日比谷音楽祭で初披露されます!😊ホントにいい曲なのでみんなて聞いて、みんなで歌ってほしいな♪#日比谷音楽祭 #今日からここから https://t.co/vB2E7bk2on
— 亀田誠治 Seiji Kameda (@seiji_kameda) May 23, 2021